実践的な映像制作から見たHDRとその活用
HDR from practical film production and its utilization
(株式会社ポリゴン・ピクチュアズ)
(Polygon Pictures Inc.)
■概要
■Overview
実際の講演では、ゲーム分野からの打診として頂いていたポリゴン・ピクチュアズにおけるHDRやカラーマネジメントへの取り組みの紹介や、映像制作パイプラインにおいての重要視しているポイントなどのご紹介、そこに加えて将来的に取り組みたいと考えている課題などの紹介を行いました。
主には下記のアジェンダに沿って紹介しましたが、本資料では、多少リンクなどを加え、ゲームエンジンに置いての各種工夫から事後的に考えた事柄などを交え、記載させていただきたいと思います。
当日の講演におけるアジェンダ
・映像制作とカラーマネジメント
・HDRとカラースペース
・OCIOとパイプライン
・セルルックCGとカラーマネジメント
・映像制作におけるHDRと課題
※本資料では従来のダイナミックレンジをSDR、高ダイナミックなものをHDRと呼びます
under construction...
■映像制作とカラーマネジメント
■Film production and color management
映像制作における色管理面での要求事項は年々増えていく一方と考えており、とりわけ海外大規模制作や動画配信、コンテンツのマルチメディア展開にともなう、制作時のデータ管理の徹底と事後的参照性の向上など、製造業における生産管理とはまた違った側面での難度を生じる形での高度化が進みつつあります。理想としましては、一つのデバイスによって撮影、生成、表示される色が複数のデバイスまたは出力先でも確実に同じ見た目になるように努力することを目指しつつも、完全にはそれらは達成不可能である側面もあることから、品質管理面での工夫や、ワークフロー上での効率性と自由度の確保を進めていく中で、日々改善点を見つけ出しては改善し、スタッフと共にその課題を認識し徐々に改善を行っていくことで、色管理面でのスタジオとしてのスキルの高度化を進めております。
映像制作における画像データの取り扱いで、ゲーム用途との顕著な違いと考えられるのは、EXRなどのマルチチャンネルでの画像フォーマットを多目的に用いていく傾向のなかで生じている部分があり、例えばDeep Dataやコンポジット時で必要となるMotion Vectorやゲーム分野のG-buffer的な利用を行う各種データ、セルルック表現特有の計算に必要な各種データ、などなど、色情報の取り扱いだけを想定し色管理を行うという発想ではなく、色情報と共に扱うことになる全ての情報・データとの連携性を意識しての色管理を行っていく必要があり、ワークフロー全体でのカラーマネジメントで求められていくこととなっております。
連携先のスタジオにおけるデータ互換性や、カラーマネジメント上の工夫のポータビリティやクラウドサービス越しでの提供性など、これらは外部のスタジオとの連携性を確保した上でのカラーマネジメント計画設計が映像制作パイプラインのデザイン時点で必要となり、それらを見越したインフラ設計をあらかじめ行っていくことがスタジオとして必要になっていく傾向にあります。
under construction...
■レンダリング時の要求事項の変化
■Changes in rendering requirements
映画Spider-Verseの成功の影響もあり、実写系手法とセルルック系手法の良い混在を模索していく話題は、会合も含め、様々な方面で話題となっていることではないかと思います。そこでは、旧来のディスプレイガンマの違いを考量するうえでのリニアワークフローはもちろんとしても、VFXで通常扱う各種キャッシュや映像制作パイプライン上での迅速な手戻りの達成とイテレーション回数(制作時の試行錯誤回数)の確保なども考慮し、新しいルックをプリプロ段階で開発していく際の支えとなるサーバーサイドサービスの設計なども全て視野に入れた上で、スタジオとしての映像表現上の表現手法の拡大を想定した、各種変革を支えていく映像制作パイプライン作りというのが必要になっていく傾向にあります。
実際、今までのセルルック表現を扱う想定でストレージ周辺を設計しインフラ構築を行ってきた場合、高度に複雑化していく各種キャッシュへの制作時のアクセスやレンダーファーム時のアクセスを考えると、それらは自然と制作時にトラブルとなりやすい展開が想像していけるかと思われます。もちろん、海外大規模制作の場合、海外クライアントからは通常、アセスメントとして制作時の要求に耐え得るインフラをスタジオが保有し、運営スキルを保持しているかなどのチェックが行われますが、ある程度日常的にこれらのワークフローへの対応などを進めて行かなければ、一朝一夕に運営するにはスキルの貯蓄が不十分となり、請負い型のスタジオとしての限界を生じていく傾向にあると言えるかと思います。
ポリゴン・ピクチュアズでは、自社ならではの独自な表現手法を、スタジオとしての特徴という意味でも育てていくことを現在進めており、「映像制作におけるポリゴン・ピクチュアズならではの表現力」をキーワードに、現在大規模制作を支えているインフラの増強も含めて、改革を進めていることとなります。
そこで本会合においては、ポリゴン・ピクチュアズで重要視しているポイントを重点的に紹介することによって、スタジオとしてのアプローチに関して説明を行いました。
under construction...
■ポリゴン・ピクチュアズにおけるカラーマネジメントにおいてのアプローチ
■Color management approach in Polygon Pictures
ここ数年のポリゴン・ピクチュアズでの制作では、セルルック表現を数多くの案件で扱っており、旧来のセルルックの範囲を越えた表現手法の模索を激しく進めていく傾向にあります。そこでは、前提として、我々のカラーマネジメントは、映像としての見え方を扱う制作者(アーティスト)の活動を主体に考えるように進めており、必要事項として、キャラクターや背景などの制作過程でも、その見え方を扱う工夫を随時進めていくことを重要視し、見せ方や見え方に対するスタジオ内での"モデル化"を通して、ポリゴン・ピクチュアズ特有のルックや表現力の確立を、スタジオとしての文化を意識し育んでいこうという方針で進めております。
今回の講演では、過去にこの「A Film Production Technique Seminar」の資料ページで紹介した幾つかの資料での説明内容を元に、時期ごとにアプローチが変わっていく様子を紹介し、変化の際の要因であった課題などの説明を行いつつ、現在は、(日本のアニメを含む)様々なNPRの手法とPBRの手法のストーリーテリング上でのリズミカルな展開を目標とした、新たな表現手法の確立を進めていることなどをお話しししました。
NPRとPBRの各種手法の融合と言える段階は、なかなか厳しい課題が山積みとはなっていることと考えてはいるのですが、PBR主体でのアプローチで、Disney-PrincipledBRDFなどど同様にアーティストへの操作性を重視しながらPBRの枠組みをモディファイしつつ考えていく方向での推進を進めており、万能なフレームワークを用意していくといった方向ではなく、スタジオ内でのアーティストがアイデアを模索しつつ話し合っていく側面での多様化を念頭においたフロー確立のために進めていることなどをお話しし、今後もアーティストが自由に表現を検討していくという認識のもと、それを支えていく映像制作パイプラインやインフラの強固さと柔軟性の達成が、ポリゴン・ピクチュアズにおけるカラーマネジメント方針を考えていく上での重要事項であることをお話ししました。
under construction...
■映像制作分野としてのゲーム分野へ向けての質問として
■As a question for the game field as a film production field
会合では、OIIO、OCIO、OpenEXR、などなど、ACEScgなどの対応や各DCCでの色管理面での世界的に標準化の進む各種技術の恩恵に関して説明しましたが、それらがASWFなどでより安定度を持って開発が進む映像制作分野においての、単一スタジオに留まらないカラーマネジメント面での効率性向上に関しても触れさせていただきました。そして、本会合はゲーム開発主体での会合にお招き頂いてお話しさせて頂いた映像制作スタジオとして講演させて頂いた経緯もあり、聴衆への問いかけとして、ゲーム分野での同様の取り組みなどがあれば教えていただきたい、などの質問もさせて頂きました。会合では、映像制作分野とゲーム制作分野でのこれらの取り組みの違いなどに関して様々な質疑が行われ、参加者は各自、自身のスタジオに戻って、ここで話題に出た課題に関して社内で話し合われたと事後的にお伺いさせて頂きました。
このように、分野が違えば、全く異なる、アプローチでのマネジメント上の違いを話し合うことによるお互いの気付きは重要で、今回は製造領域からの講演者もお見えになったことにより、より厳格な生産管理体制を要求されるであろうこの領域の厳しさに触れることも出来、会合参加者は様々な想いを抱えて自分たちのスタジオでの変革案に関してコメントされておりました。
under construction...
■まとめ
■Summary
今回の講演では、映像制作分野では何度かご紹介させて頂いたポリゴン・ピクチュアズでのカラーマネジメント上の工夫を、特に、映像制作パイプライン側の今後の変革へのプランも込めてお話しさせて頂き、ゲーム分野と映像制作分野でのカラーマネジメント上のアプローチの違いなどを参加者の皆さんとじっくりお話し出来ました。また、映像制作分野、ゲーム制作分野でのそれらのアプローチと、製造方面での品質管理や欠陥検査などでの厳しい要求事項の違いなどもじっくりディスカッション出来、色情報に留まらない、制作や生産上での情報管理のあり方を見直し続けていくことの重要性を改めて認識出来る良い会合になりました。
講演中も、今回の講演で得られた経験を元に、国内アニメやセルルックなどに関するドメスティックな色管理面での課題などを今後のFPTSでの企画に生かしていきたい、とお話しさせて頂きましたが、PBRとNPRの組み合わせ的な表現手法に関する話題などを今後の企画で取り扱っていくことを積極的に進めて参りたいと思います。
under construction...