映像制作パイプライン推進での苦悩と葛藤、これからのパイプラインで考えていけること
Film production pipeline promotion and conflicts, what can be considered in the future pipeline
(株式会社ポリゴン・ピクチュアズ)
(Polygon Pictures Inc.)
■概要
■Overview
ポリゴン・ピクチュアズでは少し以前の海外の大手スタジオで培われたワークフローを追従するかたちで、アーティストが分業で制作を行え、効率性や堅牢性を重視し、制作上のルールや細かい仕様が定義されたパイプラインシステムを開発・運用してきました。100〜200人程度の比較的大規模な制作体制のなかでは、一定の効率効果を発揮しつつもアーティストやエンジニアにとって、多少窮屈に感じられる側面もありました。また、パイプラインシステムの根幹には商用のDCCツールが使用されることが前提となっており、そのフレームワークや機能に準ずる開発項目が多いため、開発面でも多少の制約をもつシステムであったように思います。
近年では、海外のスタジオを中心にプロダクションにITインフラ技術を活用していく流れも高まり、サーバーサイドシステムへ転換の必要性も高まってきました。ポリゴン・ピクチュアズにおきましても、FPTS-kitchenを通じてこれらの技術導入を模索してきましたが、そこでの苦悩や葛藤も多くありました。それらを先進的なIT事情もふまえながら考察しまとめていきたいと思います。
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■映像制作パイプラインの推進とそこでの葛藤
■Promotion of the video production pipeline and the conflicts
ポリゴン・ピクチュアズでのここ10年間のパイプラインシステムは、効率的かつヒューマンエラーやデータエラーが発生しにくいことに重点をおきながら、ある程度システマチックに制作が進行していくパイプラインを目指して構築をしてきました。
また国内の多くのスタジオと同様に、商用DCCツールを主体としたワークワークフローを設計し、パイプライン開発を推進してきました。
大量の制作物量を捌いていくうえでは、効果的に機能した面もありますが、多くのルールや工程毎に細分化されたデータ仕様の理解など、アーティストの作業や作法に縛りを与えてしまう面も多々あり、効率性と制作の自由度という点で、常に葛藤を抱えながらパイプライン推進を行ってきました。
加えてワークフローの根幹となる制作ツールはほとんどが商用のDCCツールで構成されており、パイプラインの仕様をDCCツールの仕様に合わせて設計をする、DCCのフレームワークのなかでソフトウェア開発をおこなう、DCCのバージョンアップ対応などにも日々労力がかかる、といった開発上の苦労もあり、エンジニアの視点でも改変がしづらく開発に制約がかかるパイプラインシステムであると思います。
これらの状況を少しでも改善していきたい、アーティストと開発者双方にとってよりよいパイプラインとは!?、その悩みがFPTSでのセミナーシリーズ開催やFPTS-kitchenの開発へモチベーションとなりました。
推進していく過程では、自由度をあげていくという点で多くの課題があり、顕著な例としましては、DCCツールベースに慣れたスタッフ同士では、その枠を超えた発想そのものが出づらいということが浮き彫りとなりました。アーティストは商用のツールのUI/UXに慣れているため、どうしてもUI/UXまわりでの開発要求が増える傾向となってしまったり、エンジニアでもDCCの便利なライブラリやAPIに慣れているため、そのフレームワークなしで開発するには、これまでのよりも広い範囲の技術スキルや知識を獲得し育んでいく必要性が痛感されることとなりました。まずは通常の業務で扱っているような手触りの良い慣れた環境から少し距離をおき、発想そのものを転換していく、そのような考え方が大切に思われました。
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■IT技術の進展からみるパイプライン変革の必要性
■The Need for Pipeline Transformation in Light of Advances in Information Technology
数年前から海外の大手スタジオでは、先進的なIT技術・ITインフラ技術を、自社パイプラインシステムやインハウスのツールに取り入れて設計し開発していく流れが活発化してきました。現在ではクラウドインフラを中心に激化するサーバーサイド技術を活用してくことによって、ソフトウェアとインフラが高度に連携したシステムが開発されることが日常化してきています。
一方国内では、ITサービスを利用していく流れはあるものの、自社のシステム開発にそれらの技術を取り込んでいくまでには至っておらず、その潮流から遅れていることに焦りを感じるものでした。
先進的なIT技術の獲得なしには、今後パイプライン変革を推進していくとが難しくなることは明白だったため、徐々にでもトライしていけることはないのか、日々そのような模索を続けていきました。
これらは映像制作に直接的に必要なCG技術にフォーカスし、IT分野やその他分野の技術動向から離れたところでの開発が進んできたとことが要因のひとつにあるのではないかと考えています。そういった点で、他分野の知見との距離を小さく保つということの重要性を強く感じ、映像制作分野だけに閉じない活動の模索も続けてきました。
先進的なIT技術のなかでも、特にサーバーサイド技術はインフラの高度化とあわせて映像制作パイプライン開発では今後必要不可欠となる技術であると認識し、これらの技術に少しでも慣れていく、その環境での開発を推進していくということを目標にFPTS-kitchenの開発を推進していきました。またサーバーサイド技術への転換を進めていくうえでは、DCCありきのワークフローから少し距離を置く必要もでてくるため、FPTS-kitchenの設計では、自動化を意識しつつシンプルな構成でフルスクラッチで機能をトライアル実装できる設計を採用していきました。FPTS-kitchenは技術スキルを育むだけでなく、DCCツールのフレームワークを離れてアイデアを検討するという点でも機能できるのではないかと考え、社内推進に取り組んできました。
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■FPTS-kitchenの社内推進
■In-house promotion of FPTS-kitchen
FPTS-kitchenを社内の技術スタッフを中心に配布し、トライアルを進めていきました。FPTS-kitchenの設計はシンプルな構成なため、TA/TDスタッフや開発スタッフなどは、短時間で習得しすぐに利用していけました。一方でIT技術、特にインフラ技術について慣れていくという点については、普段プロダクションでDCC向けのソフトウェア開発しているスタッフにとっては、インフラ技術への経験が弱いことから、想像以上に難度があるということが明白になりました。IT分野の技術は幅広い知識・スキルの組み合わせで成り立っている事も多いため、それらをある程度網羅的に扱えるようになるには一朝一夕にはいかず、学習にしても一定の時間を要することが理解されました。
これらはスタッフのスキルが不足しているというよりは、進展が激しいIT技術、他分野の動向や知見を日常的に関心を持って触れていくことが必要に思われます。自己学習も含めた普段の業務の枠だけにとどまらない技術の習得、またスタジオでどのようにその活動を支援していくかなど、複合的な課題へと展開していく気配もあります。しかしながら、他分野との接点を模索しながら、知見を得て自分たちの変革を促していく、そのような姿勢なしには実現できないように思われました。
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■他分野との接点の模索
■Seeking contacts with other fields
スタジオの日常では、CG映像制作に必要な技術を優先度高く考えていかなければいけない一方で、もっと視野を広げて、他分野にも目を向ける、他分野を知る活動が、映像制作のパイプライン発展に刺激をあたえてくれることもあるように思われます。特にITインフラ技術分野については、CG映像制作分野でも利用できる可能性が高い技術も多いと思われるため、今後これたの技術がスタジオとして扱っていけるかどうかは、大きな分岐点であり、対応が遅れてしまうと先端には追いつくことも難しくなるように思われます。
一方、他分野との接点を模索するうえでは、映像制作分野の知見を公共的に発信していくことも必要ではないかと考えられます。他分野から映像制作分野の知見に関心をもっていただきつつ、私たちも他分野の知見に興味・関心を示していく、そのような活動のサイクルが生まれることが現在の国内の映像制作業界には必要なのではないかと考えています。FPTSの活動を通じても微力ながらそのサイクルを生み出せないか模索をしてきましたが、FPTSに限らず、今後同様な活動が国内でも活性化することによって、発展的なサイクルを模索してける可能性も十分にあると思われます。その際にFPTSの活動が参照され、みなさんの模索・検討の一助となれましたら幸いです。
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■これからの映像制作パイプラインで検討していけること
■What can be considered in the future film production pipeline
映像制作では、分業制作の特性からも、一般的に堅牢でルールが厳しいパイプラインシステムを構築することが多くみられます。一方で、シンプルで使いやすく、アイデアや変更を加えやすいプラットフォームとしてのパイプラインシステムがあっても面白いのではないか、FPTSの活動やFPTS-kitchenの活動を通じて、そのようなモチベーションを持つようになりました。
DCCツールに依存しすぎず、もっと自由な発想で制作手法を考え、アイデアを練っていくこと、また少人数での制作体制ではどのようなパイプラインシステムを構築することが向いているか、効率化を加えるべきところと加えないほうが良い箇所など、暗黙の前提やこれまでの経験に縛られない発想・アイデアで向き合っていくことで、パイプラインの変革のみならず、アーティストやエンジニアのそこでのモチベーションも高く維持できるのではないか、そのような考えがパイプライン推進のなかで強くなっていきました。
他分野との接点を考えていくうえで、映像制作に特化した形態に偏りすぎない、他業種とコラボレーションしやすいパイプラインが実現できないか、業界で閉じてしまわない仕組みや活動、DX化推進とのコラボレーションなど、どんどん新しい視点での接点を探っていくことで、まだまだ映像制作パイプラインを発展していける可能性があるように思われます。
普段全く異なる分野との接点を模索することは簡単ではありませんが、一方で他分野の知見を得ていくことは今後のパイプライン変革にとっては必要不可欠であると考えています。
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■アーティストの活動制約を外しつつも、うまく稼働させられるパイプラインに関して
■Regarding pipelines that can be successfully operated while removing constraints on the artist's
activities
アーティストが窮屈に感じることがなく、自由な発想でアイデアを練っていけるパイプラインをプロダクションで稼働させていけるには、パイプラインの柔軟性を高めていくことが必要不可欠であると考えています。そのためには部分的にでも既成のDCCツールありきでのワークフロー検討をいちど辞めてみて、自分たちにとってどういうワークフローやデータフローが一番理想的であるのか、そういった模索をゼロベースでアーティストとエンジニアの間で対話していくことが大切に思われました。そういった対話を繰り返すことによって、堅牢性が高いワークフローが前提となった、ある種凝り固まった発想がほぐれていき、徐々に制作の自由度をあげていけるアイデアが生まれてくるのではないかと考えています。
また、そこで出てきたアイデアを最初から本プロダクション利用として開発するのではなく、仮組みをして試してみて、感触やフィードバックを得ながら練り上げていく、そのなかで成熟できてきたものも本プロダクションへ採用していく、そのようなサイクルが回ることによって、徐々にパイプラインの柔軟性を獲得できていけるように思われました。
それらの開発は、エンジニアにとってもDCCツールを離れ、自由にチャレンジできる内容が自然と増えていくこととなり、そこで働くスタッフのモチベーション向上や幅広い分野の技術に目を向けるチャンスを広げることになるのでは?と考えています。
一方でそれらを実現するパイプライン設計や技術開発を行っていくには、DCCツールに依存しないフルスクラッチでの内製開発部分が必然的に増えてくるため、エンジニアに求められる技術スキルが高くなることはもちろんのこと、開発リソースや開発期間などの開発コストは自然と増える傾向になると思われます。国内スタジオの多くがそうであるように限られたリソースで開発を進める場合、コストを抑える努力も必要になってくると思います。内製開発するツールやシステムの機能面での実装を優先し、開発コストが高いUIやUX部分はDCCツールに比べて多少使いづらさが出ても簡素なものにしてく、そのような形でバランスをとっていくという手法も有効であるのではないかと考えています。また、オペレーティブな作業を徹底的に自動化することによって、アーティストの制作工数を下げて全体のコストを低減していくアプローチも効果があるように思われます。
いずれにせよ、生産性や効率性を考えた場合、リスクを回避したり安定性を求めることが強くなり、自然とルールや制約が多い改変が難しいパイプライン設計へとなりがちですが、その状況の打開し、制作の自由度を得ていくには、アーティストとエンジニアの双方が常に対話し、アイデアだけでなくエフォートも相互に出し合っていくことなしには解決ができない課題であると、一連のパイプラインを推進を通じて痛感させられました。
効率性や自動化は推進しつつも、アーティストがクリエイティブなモチベーションを高く持ちながら、作品づくりと向き合っていけるパイプライン推進が今後必要になってくると思われますが、エンジニアのモチベーション維持とスキルの向上を両立させ稼働させ得るこれらのサイクルは今後も重要な課題となると思われ、その鍵が、柔軟性を高めたパイプラインにあるのでは?そのように考えております。
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■まとめ
■Summary
FPTSの一連の活動やポリゴン・ピクチュアズでのパイプライン推進を通じて課題に感じられる点やそこでの葛藤、得られた知見などを踏まえまとめてまいりました。2022年末時点では、全てを達成できたわけではありませんが、できる事からと日々もがきながらパイプライン推進を行なってきました。
人材面などでは課題解決にいたらない点も多く、昨今では、IT人材不足や技術者不足の報道も多く、人材獲得も年々激化の一途をたどっているため、深刻さを増しているようにも思われます。
一方でCGという共通言語を通じて様々な産業が連携してクロスオーバーし、新しい分野での技術開発へと発展していく、そういった流れが生まれることが重要で、解決が進む課題もあるのではないかと思われますし、更にはそこで活動する技術開発スタッフのモチベーションの向上にも広がっていけたら素晴らしいと、そのように考えております。
最後に、FPTS一連の会合を通じて得られた知見や刺激があったからこそ、これまでパイプライン変革の推進に取り組んでくることができたと思っております。会合にご参加、ご支援いただいたみなさまにこの場を借りて深く御礼申し上げます。
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