モチベーションとスタジオの文化
Motivation and studio culture
(株式会社ポリゴン・ピクチュアズ / スタジオフォンズ)
(Polygon Pictures Inc. / Studio Phones)
本資料は会合後にディスカッションされた内容を踏まえ記載しています。今後の会合の状況を見つつ加筆修正を含めブラッシュアップを進めていく予定です。
■概要
■Overview
ここでは少し違う視点からスタジオ全体とそれを支えるインフラに焦点を当て、スタッフのモチベーションとスタジオの関係を少し会合を振り返りながらまとめ、現在業界内で起きている変化について触れていいきたいと思います。所感でしかない部分も多少含まれますので、モデレーターからみたひとつの見解といった程度の認識で資料を見ていただければと思います。
今回の会合では、熟練したスキルを習得して業界の成長に貢献してきた先達の気持ち、そこでの葛藤、肯定的な姿勢、そういったものがラウンドテーブルの中で展開されました。
その精神は、時代ごとに求められるスキルが変化するといった業界の構造上の課題を肯定的に捉え、そこで前向きに楽しむ姿勢、葛藤はあれど常に挑戦をし続けて来た結果としてのコメントの数々など、参加者の気持ちに訴えかけるそのような素晴らしさがあったのではないかと思われます。
また業界の黎明期での話題やその時代ごとでの楽しさ、苦労など、業界歴の短い若い参加者の方々には非常に刺激ある内容の紹介が多かったように思います。
多くの場合、スタジオは他のスタジオでは感じることができない、自社ならではの環境でモチベーションを発揮し得るような何かを持っていなければ、スタジオとしての強みや競争力が育たないと言われることが多いと思います。
一方、働く側の視点からは、仕事へのスタンス、心身の余裕の持たせ方やオンオフの切り替え、スタッフのキャリアパスとスキルアップのバランスへの様々なケア等、そういったものを求めて転職へと向かっていくように感じられ、今回の会合中でもそのようなことを考えさせられるコメントや質問が多かったのではないかと思います。
転職に対するインフラも整備されている現代では、働く側のそういったニーズを汲みとりやすくなっていると感じられ、働き方の多様化も推進されるなかでは今後より一層そのような流れが加速するように思われました。
しかしながら、請負い型のスタジオを展開する場合、そこにはクライアントの意思とビジネス上の様々な背景が入り組んできます。
映像制作業界の多くで見られる請負い型で営むスタジオの場合、メーカーとして自社での企画を行いやすいとも言える現在のゲーム会社の状況に比べ、このモチベーションの維持に関する様々な要因と、請負い型であることの葛藤が自然と大きくなって来ている印象もあり、参加者の意見などからもこのような点が課題として浮かび上がって来た気がします。
現在、映像業界では動画配信バブルのような印象も過渡期に入りつつあり、落ち着が出始めているような状況ではありますが、自社の個性を発揮し、メーカーとしてコンテンツの企画や制作を行える機会は、以前と比べ請負い型の映像制作スタジオもそのチャンスを得られ始めたのではないかと想像できます。
自社のスタジオとしてのアイデアや文化を世には発信していくという意味での作品も次第に増え始めて来ているように思われ、そういった感触も会合では出始めて来たのではないかと感じられました。
では実際に、そのような現在の変化がより活発になっていった場合、スタジオのインフラにはどのような変化や課題が生じていくでしょうか。
スタッフが自社の文化や映像表現スタイルにより特化するほどに、そこで得られるスキルは偏りを帯び始めますし、そのスキルを養って独立したいスタッフと、そのスキルをもっと発展的にスタジオ内で育めないか努力したいスタッフなど、様々な考えのスタッフが集まってスタジオを形成している以上、スタッフの考え方や想いでスタジオへ求められていくものはより複雑になっていく一方であると思われます。
そこではクライアントも次第に、自分達に合うスタジオへの資本参加や協業を強めていくこともあり得る展開でしょうし、つまり、そのスタジオの生み出す商品としての映像作品に、単なる受発注を介して生じる利益以上の展開を、スタジオとともに育てて行く上で望んでいくことも可能になるのかもしれません。またそれらとは正反対に、より投機的に、仲介機関を介したからこその豊富な資金での映像制作も増えていくのかもしれません。
ビジネスの視点では、クールでドライにビジネスとして割り切ることで制作しやすい映像作品もあると思いますし、これらはさらにスタジオの葛藤をより複雑な方向へと向かわせる可能性も同時に含んでいると思います。
しかしながら、これらの今後予測される複雑な展開の中で、実際にそれがどのようなビジネスへと発展していくものになるかは分からない未来ではありますが、今現在映像制作で活用されている商用ソフトウェアがいつまで維持されているかさえ不明なまま、スタジオもそこで働くスタッフも、今後スキルをどのように伸ばして行きたいか、または行くべきか、モチベーションと常に相談しつつ、スタジオの形態をインフラレベルから考えていかなければ、
現代の急速に発展および複雑化の進むインフラ設計に、なかなか焦点が絞りこみきれないのではないかとも思われました。
インフラの設計は、そのようなことも視野に入れつつ、会社経営とも調整しながら設計が進んでいくわけですが、現状と予測する将来の展開を組み立てながら、これからの時代はインフラ設計者とそれを利用するスタッフの側のモチベーションがどこまで一致していくかどうかが、そのスタジオの文化やそこで働くスタッフの環境構築の面に大きな影響をあたえるであろうと、今回の会合全般を通して考えていく事が出来ました。
同時にこれらの変化は予想よりも早く進展する可能性も感じられ、焦点を定められないままいつまでも足踏みをしている時間も長くは持てないといった危機感も少しながら感じられるものがありました。
今回の会合ほど、システムや技術以前にモチベーションとのマッチングが重要と考えさせる経験はモデレーターにはありませんでした。インフラを設計・構築・運用しているのも人間ですし、その上で制作するのもまた人間という事実があり、たまたまその時間その場所で、モチベーションを共有できるひとが集まって共同作業をしていくのがスタジオなのであると、今回は改めて認識できる良い機会になったと思いました。
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