アウトソーシングの増加とその対応
Increase in outsourcing and its response
(株式会社ポリゴン・ピクチュアズ / スタジオフォンズ)
(Polygon Pictures Inc. / Studio Phones)
本資料は会合後にディスカッションされた内容を踏まえ記載しています。今後の会合の状況を見つつ加筆修正を含めブラッシュアップを進めていく予定です。
■概要
■Overview
会合では近年増加するアウトソーシングとそれに伴うインフラ面での課題やセキュリティ、アウトソーシング先のマネジメントなどについて議論がありました。
アウトソーシングを行っていくなかでは、単に制作の内容を外部のスタジオに委託することにとどまらず、そこで制作されるアセットデータのチェックや管理、アウトソーシング先のインフラ環境の確認や
セキュリティ、コミュニーケーションなど様々な点を考慮しながら実施していく必要があります。
また近年では映像制作のワークフローは複雑化し、やりとりされるデータ量も肥大化していく一方です。スタジオ間でシームレスにデータを共有し、チェック体制を強化して管理していくかは、制作スケジュールや品質にも影響を与えるものであり
各社パイプラインシステムと連携させながら工夫しているといった紹介もありました。
映像業界とゲーム業界では扱うデータ量には差があるものの、両業界ともにアウトソーシングが増加していくと予想され、安全を担保するマネジメントや効率的なデータ共有フローの構築は共通の課題といえると感じました。
アウトソーシング先のスタジオを選定するにあたっては、事前にアセスメントを行うのが一般的です。会合中のパネルディスカッションでも、海外からの制作受託の経験が多いスタジオからよくあるアセスメント項目について紹介がありました。
アセスメントの内容には、スタジオで採用しているDCCツールやワークフローに始まり、パイプラインシステムの詳細、ストレージやレンダーファムの規模、セキュリティ対策、監査ログの取得、インハウスツールの内容、RnD人材による開発能力など多岐に渡ります。
これらは実際にプロジェクトで求められる品質と生産性を達成できるか、納期やスケジュールを守ることができるか、トラッキングされた内容をレポートするこが可能か(可能な限りシステムとしてレポートを生成する必要)どうかといった観点から評価されることとなります。
項目数は数百を超えることもあり、場合によってはオンサイトによるアセスメントを実施するケースもあります。
アセスメントを事前にしっかりと行うことは重要で、会合の参加者からも過去にアウトソーシングで想定外の事態などの経験があるといった意見もあり、制作がスタートした後に問題が発生した場合には大きなトラブルになり得る可能性があるからこそ、あらかじめ入念にチェックを行うことになるとそこでは考えられています。
例えば、セキュリティ面で問題が生じた場合、商品のイメージやマーケティングの計画に悪影響を及ぼす結果となることも予想されます。国ごと異なる文化的背景やリテラシーレベルの差などにも考慮しながら慎重に進めていくことも求められます。
また制作されたアセットデータのなかに著作権や知財権などを侵害しているものは無いかといったチェック機能も必要で、コンテンツが完成した後にそれらの問題が発覚した場合、大きなトラブルとなってしまいます。また強いて言えば、そのような侵害行為を行なっている可能性を示唆しかねない行為をスタッフが業務外で行なっていないかなどの細やかなケアも自然と必要にはなります。
これらのリスクを低減させるために、クライアントによってはアウトソーシング先を資本関係のある子会社までに限定されるケースもあります。管理体制のチェックなどは最初に一度行えば済むものではなく、定期的な監査をしていくことでそれが正しく維持されているかを確認していく必要があります。
そのような定期的なチェックを資本関係の無いプロジェクト契約の会社間で実施していくことは難しく、また大きな労力がかかります。そういった面でアウトソーシング先の範囲を限定することは自然な流れでもあると考えられ、実際に海外の大手のスタジオを中心に
複数の国に自社のブランチスタジオを構築するような体制で制作をすすめているスタジオも少なくありません。
実際に会合の参加企業のなかでも自社で海外にブランチスタジオを設けるスタジオもあり、各社が苦労している点のひとつでもありました。
また、アウトソーシングでの管理面では予算やスケジュール面でのトラブルもよく耳にするといった話題が会合中にありました。こういったトラブルは海外よりも国内で多く発生しているように感じられ、それらはアセスメント同様に契約を含めた制作時のパラメータの事前の交渉と確認が 上手く機能していないように思われました。場合によっては、現場判断の自由度の大きさがこれらトラブルの要因になっているのかもしれない、そのような側面での課題もそこから自然と浮かび上がってきます。
例えば海外のクライアントからの制作請負の場合、契約時に制作時のスケジュールや生産性、リテイク回数、アウトプット品質の水準が策定され明記されることも少なくありません。
これらのパラメータは基本的には特別な理由がない限り厳守されなければならず、またクライアントからの過度なリクエストの際には交渉の材料として機能します。
国内でのトラブルについては、国内特有の商習慣が影響していることも考えられますが、会合中、海外の案件を多く手がけるスタジオなどから上記のような紹介があった際には、参加者の間で国内と海外での差を大きく感じるといった意見もあり、 グローバルな制作体制を構築していく上では、これまでの国内での手法ではより問題が深刻になっていくことが理解されました。これらは大きく、国内と海外という違いといものではなく、より具体的には、デットファイナンスで制作することの多い海外と、エクイティファイナンスで制作することの多い国内での制作で生じる、資本獲得上の違いで生じる責務の範囲である印象が強くあります。
データの共有という点では、主に東南アジアなど国内のインフラ事情によってはネットワーク回線の速度が遅く、大容量のデータ転送に数日間かかるといったことも紹介されました。高速転送のための通信プロトコルの利用やクラウドサービスのグローバルリージョンを活用した事例の話題もありましたが、
データサイズによっては、それらの手段でも現実的な時間で転送が行えないこともあり、物理的にデータを持ち運ぶといった手段も場合によってはやむをえず発生しているといった意見もありました。
また大容量データをパイプラインシステムと切り離したかたちで共有した場合、パイプラインシステムからのデータの収集、再展開といった作業が追加で発生し手間とコストもかかってしまうため、大きなロスへと繋がります。 これらの現状は、制作フローの効率化という面で足かせとなっていることは明確であり、物理的なデータの持ち運びは人が介在する問題もあり、セキュリティ面においてもリスクをあげてしまう危険性を含んでいます。ストレージの可用性や冗長性の問題もそこでは影響し、入念なインフラ設計無しには稼働し得ない、これらは何も映像制作だけではなく、衣服や機械製品の製造と同様の課題を映像制作も持ち得ていると考えると問題を把握し易いのかもしれません。
会合ではコストの低減やスケジュールの短縮といったメリットのために、アウトソーシングを活用する傾向は今後も増加をしてくと予想する参加者が大多数でしたが、その一方でその品質管理や安全性、インフラ面でのチェック体制や管理という観点では まだまだ課題が多いということが改めて認識されたように思います。また、クライアントへ随時運用でかかるコストを説明していく、それらを文書に残していく、他社と比較しコスト差が生じているならそのコスト差を埋める努力をしていく、そのような他業界でも同様に基本的な事柄と考えられる事実を、会場では再認識出来有意義であったと思います。
これらの課題の解決として、まずはそういった課題やリスクを正しく認識しアセスメントやアウトソーシングにおける基準を明確化し、チェックや管理体制を厳格化していくことが重要であると思われます。
特に昨今のようなコンテンツのグローバル化が進むなかでは、国内の商習慣にあわせた契約形態や基準からグローバル基準の管理やチェック体制へシフトしていくことが必要であると感じられました。
またアウトソーシング先とのデータ共有については、パイプラインシステムの機能のなかで対応することにより、効率化や安全性を確保し、さらにはチェック体制やレポートの強化といったことが達成できるとものと考えます。
普段パイプラインシステムのアーティスト側のツールについて取り上げられることも多いですが、これらの内容もパイプラインシステムとしてカバーするべき範囲であり、アウトソーシングを含めた複雑な制作体制のなかでは、今後そういった機能がより重要になっていくでしょう。
今後は様々な意味でグローバル化の課題を各スタジオが考えて行かざるを得ない中、今回の会合では、会社の違いという垣根を越えた、問題意識の共有が良い形で成し得たのではないかと思われました。
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