求められていく研究開発のスタンスの変化
Changes in required R&D stance
(株式会社ポリゴン・ピクチュアズ / スタジオフォンズ)
(Polygon Pictures Inc. / Studio Phones)
本資料は会合後にディスカッションされた内容を踏まえ記載しています。今後の会合の状況を見つつ加筆修正を含めブラッシュアップを進めていく予定です。
■概要
■Overview
インフラの高度化、複雑化により、最近では映像制作スタジオやゲーム開発の現場で、CG固有のソリューションではなくIT全般で使える技術を随時探していく傾向が出てきたように思います。これは、使用するための要求スキルや社内のコンプライアンス強化を求めるものの、汎用的な技術として広い範囲の技術上の選択肢を生むことで、スタジオごとの違いや多様性を生んでいく、新しい展開に入りつつある印象を持ちました。
特にクラウドインフラ技術の発展にともない、それらの技術を効果的に活用することのメリットを模索しつつ、スキルの習得やワークフローの変更、コストバランスの最適化などを、各社が取り組んでいる実態がありました。
映像制作のパイプラインにおいても、これまでDCCツールの拡張やローカルのストレージ、オンプレミスのファイルサーバーでのデータ管理など、限られたインフラのなかでシステムが構築されることが多かったように思いますが、ワークフローの最適化や多様な制作体制に対応するために、
これまで培った技術分野だけでは十分ではなく、一般的なIT技術を含め、扱えるインフラ技術の範囲を拡張することが、よりパイプラインを高度なものへ発展させるために不可欠であると思われます。
これらの技術を習得し、映像制作特有の要件に対応していくことで新たな技術的発展の可能性も検討していけるようにも感じられました。
さらにこの傾向は、最近の機械学習や深層学習などのCG分野への応用とも重なり、高負荷計算の分散計算環境構築の映像分野へのノウハウの流入や、スタジオごとに自分たちのアイデアを実現するための技術を探す上で、IT全般という広い視野で考える傾向を生んでいるようにも思います。
その顕著な例として、講演中に、Go言語への関心が幾つかの講演者の発表内で触れられていました。普及しきったPythonのパラダイムなどからの脱却を検討する声や、Dockerコンテナなどをスタジオ内で利用して行く上での開発上の関心や、Go言語に限らず、今までのCG分野での技術開発の視野から出て行るそういった技術への関心などが目立ったかたちで出ていました。
一方でこれらの技術を扱うには、DCCツール周辺やCG技術だけではなく、WebサーバーやAPIサーバーといったアプリケーションサーバー、JavascriptやWebGLなどのフロントエンド、RDBやNoSQLなどのデータベースシステム、大規模ファイルシステムやオブジェクトストレージ、ネットワークやセキュリティといった、広範囲の技術スキルや知識なしでは扱うことが難しいものが増えていく傾向な為に、
プラットフォームとしてのクラウドインフラとあわせて、エンジニアは最低限これらのスキルを身につけていく必要が会合のなかで理解されました。
OSSなどの広範囲な活用やインハウスによるツール開発、システム開発の傾向も感じられ、そういった点では映像業界もゲーム業界も同じようなフレームワークを採用するという共通点がありながらも、それぞれの発展をとげていくように考えられています。おそらく、この流れは数年に渡って加速化し、各スタジオや各ゲーム会社内製の機能やサービスというかたちで開発が進み、今後は今まで以上に個性的な発展が見込めるように思われます。
実際、今回の会合でも内製のソフトウェアやサービスへの研究開発強化の側面も際立って来ていました。内製のものは、開発力が直接反映されていくために、商用のものと比べ不便になりがちで、開発コストとのバランスなどもあり、最新のアルゴリズムが常に採用されるわけでもないという側面もあります。
その背景の中で商用ソフトウェアと比較して、高度かつ汎用的なものを内製で目指すことは難しいまでも、クラウドインフラという時代では、機能をインフラ内で自由にスケーリングして用いる前提で機能やサービスを設計することを念頭に、出来る範囲ででも内製のものへの切り替えを行う企業も出てきたように思います。
CG技術開発の歴史から見ると、過去インハウスでの開発が当たり前だった時代から徐々に商用ツールを利用する傾向にシフトしてきた経緯があり、一見その流れに逆行するようにも見受けられますが、OSSの発展が後押しするかたちで、今後インハウスでの開発の必要性は高まっていくと予想され、開発コストとのバランスを加味しながら、社内にどの程度研究開発リソースを確保するか、またそいいった人材をどのように獲得、育成していくかなどが課題として出てくるのではないかと考えられます。
特に研究開発人材や開発エンジニアの不足は業界全体の課題であり、どの業態においても人材の獲得に苦労している実態が会合内の参加者からも聞かれました。映像業界やゲーム業界で働くエンジニアの存在は周辺からの認知度が低く、そもそもそういった業種のエンジニアが必要になっていることを広く周知してもらうことの活動も必要であるという意見がありました。
加えて、参加者の中の他業界から映像制作やゲーム制作の業界に転職されてきたかたなどからは、他業界で培ったスキルを活かすことは可能であるが、業界特有の用語や技術、文化に慣れるまでには一定の習得期間が必要になるということが紹介されました。またその時間と労力を費やした結果、以前の分野や他分野で活動するには厳しい事態を招きやすく、映像制作やゲーム開発への興味が高く専念するくらいの意思を持っていないと、業界を移動してまでは転職するというモチベーションを持ちづらいという意見も出ていました。
他業界からのエンジニアが活躍できるように、会社組織としての受け入れ体制も重要ではありますが、業界で必要となるスキルや知識を事前に習得するための情報の少なさやまとまった形での取得が難しいことも、他業界からの流入を難しくしている要因となっているように思われます。逆に言えば、映像制作やゲーム開発の基盤技術を、いわゆる一般のIT技術を用いて展開し、業界特有の展開を減らしていくことで、他業界からの流出入を推進する助けになるという見方もあると思います。
一方で、他業界でも慢性的なエンジニア不足が続いているような状況で、他業界からのエンジニアの流入と業界内エンジニアの育成との両面を検討していく必要があると思われますが、業界内のエンジニア育成のための情報が、ある程度まとまった資料として出ていくことにより、それらを他業界のエンジニアが目にすることによって、相互に効果が得られる展開になることも可能性として感じられました。
本会合サイトに記載している一連の関連資料ページの内容も、そのような展開の期待を込めてモデレーター側で資料をまとめていっています。
また、インフラ面においても同様な展開が予想されると感じられました。会合中もインフラエンジニアが担当している範囲は年々拡大しているという話題があり、これまでハードウェアの設計や運用がインフラエンジニアの中心でしたが、クラウドインフラの進化やインフラ面におけるOSSソリューションの拡大により、
今後インフラエンジニアにおいてもソフトウェア開発といった側面が増し、OSSをうまく利用しながら、部分的には独自のインフラ開発といったことが進むような印象もありました。
ここまでの議論を総括するかたちで少しまとめると、他分野の視線を意識した情報発信と、お互いのスキルの向上、業界特有の技術も検討しながらも、他分野との技術交流も推進しつつ、適切な情報発信をしていくことや、SNSなどでの短い文章での情報発信ではなく、技術資料として現状を常にまとめ直しつつ掲載していくことが重要ではないかと思いました。また情報の発信は日本語だけでなく、英語圏向けへも同様の情報発信を行うことで、業界自体を開かれたものに維持していくことが可能になるのでは?とも思われました。
会合中はさまざまな職種に対するキャリアパスやモチベーションの議論もありましたが、商用ソフトウェアの拡張やそれらをベースにしたパイプライン開発、ありもののインフラ利用にとどまらず、ポイントをおさえたユニークなソフトウェアやシステム、インフラをインハウスで開発していくことにより、それらに関わるエンジニアのモチベーション向上にも少ならからず効果があるものと思われます。
今回の参加者はソフトウェア開発エンジニアからインフラエンジニア、TA/TDと多様なメンバーで議論を行いましたが、高まる技術研究開発の需要を自社の業態にあわせどのような開発チームを編成し対応していくかが、今後のキーとなると感じられる会合でした。
しかしながら、それ以上に、情報運用上のリテラシー向上や、コンプライアンス面の強化など、他分野から遅れている部分については解消し、場合によってはそれ以上の意識で技術の展開をしていくことが、今回の会合で浮かび上がった課題の中では最もクリティカルなものに思えました。
さらには、学術機関向けへの情報発信なども継続して行い、映像制作やゲーム開発特有の”時期ごとに会社ごとに必要なものが大きく異ってしまう分野”特有の情報発信の仕方なども、模索していくべき時期に来ているのかもしれません。
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