SF作品におけるモニターグラフィックス
Monitor graphics in science fiction works
(株式会社ポリゴン・ピクチュアズ / スタジオフォンズ)
(Polygon Pictures Inc. / Studio Phones)
This document is prepared by the moderators of the lecture series “Craftsmanship and Artist Techniques” in concurrence with the start of the series.
Please check the details of the lecture series in the history page, which can be accessed from the following link.
https://a-film-production-technique-seminar.com/crafts/crafts_history.html
translated by PPI Translation Team
■概要
■Overview
SF映像作品などを中心に、未来的なコンピューター端末や乗り物でのコンソール表示、ディスプレイ式のユーザーインターフェイスなどの表現を扱うことが多々あります。その際、グラフィカルなモーショングラフィックスが用いられることが多くありますが、アニメーションの制作では、それらをモニターグラフィックスという呼称で、制作のなかでのひとつの工程として扱われて発展して来ております。
モニターグラフィックスは一般的に、見る側が作品に自然と引き込まれることを意識して、キャラクターや背景の設定などを細かく決めて世界観作って行くことが多くありますが、それらがあることによってその時代設定や現代とは異なるSFの要素として視聴者が感じれるような情報を映像に付加するように扱われており、その効果として、作品の世界観を表現する記号的な要素として重要な役割を果たしていると考えられています。
他にも、ストーリーの展開を補助していくような演出表現として活用されるケースもあり、そのシーンでの状況の説明や、作戦といった概要が視聴者にとって分かりずらい情報を、わかりやすく簡潔に説明するといった、視聴者にストーリーを印象付けていくために重要と感がられております。
これらは、近年のアニメーション制作において演出の観点からもその需要や重要性が高まりつつある背景により、SF映像作品には欠かせない要素として認識されており年々重要度を高めております。
本資料では、実際の制作例を交えながら、SFアニメーション制作におけるモニターグラフィックスの制作プロセスを、ポリゴン・ピクチュアズで制作された「BLAME!」の事例をもとに、プリプロダクションでの設計段階から、実際のプロダクションでのワークフローなどを解説していきたいと思います。
作品のスタイルや設定によってそのプロセスは作品ごとに異なってくる部分も多々ありますが、あくまでSFモニターグラフィックス制作例のひとつとして、世界観の設定やデザインプロセスについて、少しでもご参考になりましたら幸いです。
旧来のアートワークの見直しや、古典的作品を支えた制作過程の学び直しは重要とモデレーター達は考えており、「制作環境の変化と重要性を持つ事柄の変化」の大きな要因となっていると考えております。下記も合わせてお読みいただけたらと思います。
制作環境の変化と重要性を持つ事柄の変化
https://a-film-production-technique-seminar.com/crafts/materials/ppi_phones_production_environment_importance/index.html
We often handle elements like console displays for futuristic computer consoles and vehicles, or display-type user interfaces, largely in SF works. These displays are often created using motion graphics, and within animation production they are treated as and continue to develop in a phase of production called "monitor graphics".
Monitor graphics are generally created with the objective of naturally drawing viewers into the work, and of carefully drawing out the stories behind its characters and backgrounds and building up the work's worldview. Additionally, monitor graphics add information to the film that the viewer recognizes as significant to the work's historical backdrop, or as an SF element that does not exist in the present. For this reason, monitor graphics as elements play an important role as symbols that express a work's worldview.
They are also used as a dramatic expression to support transitions in the story. They are used to explain the situation in a scene, and to simply explain complicated information, like a strategy. For these reasons, monitor graphics are important for conveying a work's story to its viewers.
The demand for and importance of monitor graphics in animation production, including from a directorial point of view, has been on the rise. In recent years they have been recognized as an indispensable element in SF film works, and their importance continues to increase every year.
This document will discuss the process of producing monitor graphics within SF animation production while bringing up real examples from production. Examples will be taken from BLAME!, which was produced in Polygon Pictures, and will explain their work flow starting with the design phase in pre-production, and moving on to their actual production.
While this process does vary greatly depending on an individual work's style or background, I hope for this document to serve as a reference for the background behind and design process of a work's worldview, using the production of science fiction monitor graphics as a single example.
The moderators believe that it is necessary to reassess former artwork and to learn from the production phases that supported previous works, and consider this a large factor in the “changes in the production environment and in matters of importance.” Please consider reading the following document as well.
Changes in the production environment and changes in matters of importance
https://a-film-production-technique-seminar.com/crafts/materials/ppi_phones_production_environment_importance/index.html
■モニターグラフィックスのワークフロー
■Monitor graphics workflow
モニターグラフィックスはアニメ制作のワークフローのなかで、スタジオによっては「ディスプレイ」という工程で呼ばれることもありますが、特にSF作品においては、デザイン設定のひとつとして扱われることも多く、ワークフローのなかでは比較的早い段階からデザインの設計を始め、段階的にブラッシュアップを重ねながらプロダクション工程を進めていいくとったフローが多いように思われます。
現在は複数の工程でこのディスプレイの作業が存在しますが、これらの連携または工程への組み込みの方針などは、グラフィックスデザイン工程の環境そのものとともに今後も見直しが進むと考えています。
In some studios, the monitor graphic workflow in animation production is known as a phase called "display", but especially in science-fiction works it is often included as part of the design phase. Plans for designs are created at a relatively early period in the overall workflow. The flow often consists of brushing up designs over multiple iterations during this phase.
Currently, display work is spread across multiple phases of production, but we think that in the future, the coordination of each of these processes will be broadly re-evaluated, along with their integration into each phase, and the graphic design phase's environment itself.
■プリプロダクションでのデザイン検討
■Design review in pre-production
プリプロダクションでは、プライマリーデザインと呼ばれる作品全体に渡ってモニターグラフィックスのベースデザインを作成していきます。作品の世界観を考慮した、これらはプロダクション工程での指標となるようなキーデザインとなり、その後の工程全てで参照対象となります。特にSF作品におけるモニターグラフィックスは、その作品に登場するメカやディスプレイのUIなどその世界観を表現するための設定の一部でもあり、重要なデザインに位置づけられることも多くあります。
またモニターグラフィックスは実際にはアニメーションをしていることがほとんどなため、モーショングラフィックスとしてアニメーションさせるケースを考慮する必要があります。つまり、リグなどの設定を通した操作性の良さとデザイン面での両立が課題となっており、デザイン上の自由度の模索と同時にその操作性を確保する開発を両立していくことが重要といえます。
プライマーデザインの例
©︎Tsutomu Nihei, KODANSHA/BLAME! Production Committee
これらは作品の設定や世界観を決めていくうえで重要なデザインとなるため、ディレクターと密なコミュニケーションを取りながら、デザイン設計を進めていくことが大切であると考えています。モニターグラフィックスにはストーリーのなかで演出をサポートするような役割を持つこともあるため、作品のなかでどのような場面でどのように利用されるかなど、ストリー展開をブレークダウンしながらモニターグラフィックスのデザインの構成を詰めていく作業が必要になっていきます。
現在の段階では、大まかにこれらのデザインプロセスを進めていく枠組みのようなものはあります。しかしながら、アイデア段階のものからアイデアを具現化し展開を行っていく過程のプロセス化、といった段階までは深く踏み込めておりません。アイデアの展開時の自由度を緻密に模索していく、チーム内でのデザインの掘り下げ過程のプロセスを共有していくといった側面も含めて、今後はある種の体系化されたプロセスも検討していける領域といえるでしょう。
ディテクターとのイメージの共有とデザインのアイデア(スケッチ)
©︎Tsutomu Nihei, KODANSHA/BLAME! Production Committee
しかしながら、モチーフの展開など、抽象的な形状からイメージを膨らませている領域では、既に一定のプロセス化なども進んで来ているといえます。
例えば、デザインの初期段階では、作品の設定や原作などからその世界観を読み込みつつイメージを膨らませ、それに合うような形をモチーフとしていくつか作成するように進めています。特に漫画原作などが存在する作品では、原作の細部に描かれる建物、人、物の形状、武器などのギミックや、設定資料などあらゆるものから得たインスピレーションを深く掘り下げていくことにより、より作品に沿ったかたちで直線や曲線で形にしていけるように、踏み込んだかたちで展開していくこともあります。
モチーフの作成
©︎Tsutomu Nihei, KODANSHA/BLAME! Production Committee
モチーフの模索をある程度進めた段階で、一度そのアイデアをフィックスさせた後に、それらモチーフを組み合わせてエレメントを作成していきます。エレメントは実際のグラフィックスで表示されるであろう、具体的なオブジェクトを想定して作成されていきますが、その際にウィンドウ、ゲージ、メーター、レティクル、マップ、バイタルなど作品で頻繁に利用されるものを中心に様々なバリエーションを作成していくことで、作品の世界観をより深く掘り下げていくようにデザインを進めていきます。
基本的には全てのエレメントがモチーフの配置やスケール、繰り返しを組み合わせて構成されていきますが、現在の段階ではこれらの模索は多大な尽力が費やされており、これらのアイデアの展開面でも今後はプロシージャー化などのアプローチが重要になっていくと考えられております。
エレメントの作成
©︎Tsutomu Nihei, KODANSHA/BLAME! Production Committee
しかし一方で、再利用の効くデザインプロセスにおいては、その再利用性を念頭に効率化が進んできています。
例えばモニターグラフィックスでは、画面コンソールが多く登場するため、そこで表示される文字や記号デザインは再利用するかたちで用いていくことになりますが、それらをフォントとして作成し登録しておくことで、アーティストは必要に応じてそれらを呼び出して用いることができます。
フォントを扱う様々なツール上でそのアセットは共通化して用いられることで、制作上の連携性をより意識した利用が可能になっていく傾向にあります。つまり、モニターグラフィックスを作成するソフトウェアのテキスト領域にフォントを適用し、キーボードのキーに割り当てられた文字やデザインを素早く使用し、簡単に編集することができますので、それらを考慮してフォントアセットを構築していくといった考え方といえるかと思います。
デザインプロセスはアーティストの直感性を発揮していくソフトウェア上で行われていますので、フォントアセットのアーカイブ化やSF作品など各ジャンル向けのアイデア模索性を高めた制作環境の推進など、今後はデザインプロセスに深く入り込んだパイプライン設計も重要になって行くと思われます。
作成されたフォント
©︎Tsutomu Nihei, KODANSHA/BLAME! Production Committee
モニターグラフィックスの制作工程のメインはプロダクションとなりますが、プリプロダクションの段階でベースとなるデザインを作成しプロシージャル化などを推し進めていくことになります。作品の世界観へのディレクション上の構造や、SF特有の機械的な表現手法のベースラインをを事前に策定しておくことによって、プロダクション工程での各アーティスト作業の大まかな指針の設定と、その表現の精密化の両立を、今後は同時に考えていけるのではないかと思われます。
これらは演出上の各種展開をあらかじめ想定しつつデザインしていけると考えられますので、より複雑な演出へも対応可能な方向へ今後は対応していけるのではないかと期待できる部分であると思われます。
プリプロダクション後のプロダクションの段階でも、これらのアイデアを再度振り返るなどの参照をたびたび行うため、映像制作パイプライン上ではこれらを効果的に参照しやすい連携性などを随時意識し、様々なサービスを構築していっております。それらは近年の制作体制を考慮した場合、パートナー先やアウトソース先のスタジオとの連携も課題になるため、ディスプレイの工程をどのようにそこで取り扱っていくかなども今後の課題になると考えられます。手描きアニメの制作の課題と近いこれらの課題は、アーティストのスキルをどのように生かしていくかといった視点で、見直しをしていけるような兆しもあります。
手描きアニメでの制作上の課題については、下記資料にもまとめておりますので、よろしければご参照ください。
コンセプトワークのパイプラインの設計の難しさ
https://a-film-production-technique-seminar.com/fppat/materials/ppi_phones_concept_work_pipeline/index.html
手描きアニメを活かすセルルックパイプラインの可能性と課題とは
https://a-film-production-technique-seminar.com/fppat/materials/ppi_phones_possibility_celook_pipeline_challenges/index.html
最近のアニメの制作工程と制作パイプライン構築時の難度について
https://a-film-production-technique-seminar.com/fppat/materials/ppi_phones_graphinica_animation_process/index.html
The base designs of all monitor graphics throughout the work, called primary designs, are created during pre-production. These graphics are created with the work's worldview in mind, and are treated as key designs that guide production. They are used as points of reference in all subsequent phases of production. Especially in science fiction works, monitor graphics that appear in UIs in a story’s mechs or displays are an element that express the work's worldview, and are often treated as important design elements.
Also, monitor graphics are most often animated, so we must consider cases in which they are animated as motion graphics. In other words, creating graphics using rigging and other set-ups that are manipulable but also balance design quality requires future work. It is important to balance the search for freedom in design while simultaneously conducting development to ensure manipulability in graphics.
Examples of Primary Designs.
©︎Tsutomu Nihei, KODANSHA/BLAME! Production Committee
These designs are important in deciding a work's background or worldview, so we believe it is important to create designs while communicating closely with the director. One role of monitor graphics is supporting drama within the story. The assortment of monitor graphic designs needs to be filled in while breaking down the story's developments, in order to decide in which parts of the story to use them in what way.
At this current stage, there is a loose framework that these design processes follow. However, this framework has not been developed enough to create a process for developing and making ideas tangible during the idea stage of design work. Certain types of systematized processes, including the in-depth search for flexibility when developing ideas, and sharing the processes used when exploring designs within a team, can be considered an area that merits further development.
Sharing Concepts with the Director and Design Ideas (sketch)
©︎Tsutomu Nihei, KODANSHA/BLAME! Production Committee
However, processes do already exist for part of the process of expanding upon a work's concepts that are in an abstract form, like developing motifs.
For example, in early stages of design, we expand upon the concept of the work while studying its background and original works, then create several motifs that match these concepts. Especially when creating works based on manga, we closely study its minutely drawn buildings and people, the shapes of objects, gimmicks like weapons, and reference materials. By digging deep for inspiration in a wide variety of sources, we are able to shape straight lines and curved lines into monitor graphics that follow the original work closely while expanding upon it.
Creating Motifs
©︎Tsutomu Nihei, KODANSHA/BLAME! Production Committee
After a certain amount of progress is made searching for motifs and establishing the ideas we generate, we combine these motifs to create elements. These elements are ultimately displayed using actual graphics and are created for specific objects. We create many variations of these elements, mostly out of motifs used frequently in the work like windows, gauges, meters, reticles, maps, vital information, etc. Doing so contributes to design work which helps dig deeper into the work's worldview.
All of these elements are generally composed by placing, scaling, and repeating motifs. However, large amounts of effort is currently spent on configuring and creating these elements. We think that in the future, a procedural approach will become more important in creating monitor graphics, even when expanding upon the ideas on which they are based.
Creating Elements
©︎Tsutomu Nihei, KODANSHA/BLAME! Production Committee
However, design processes that benefit from reusability have become more efficient by taking advantage of reusing elements.
One example of this in monitor graphics is screen-based consoles. Because these consoles appear frequently, the designs of letters and symbols that are displayed on them are often reused. Artists reuse previous designs, which are created and registered as fonts.
Sharing assets among a variety of font-related tools makes it possible to use assets in a way that pays more attention to integration in production. This means creating font assets that can be applied to the text field in software that is used to create monitor graphics, quickly use letters or designs that are assigned to each key on a keyboard, and simply edit the resulting designs.
The design process demonstrates artists' sensibilities via software. We believe that in the future, it will be important to design a pipeline that pays close attention to design processes by archiving font assets. Similarly, we will need to to promote a production environment that excels in developing ideas for many genres of film, including but not limited to science fiction.
A Font we Created
©︎Tsutomu Nihei, KODANSHA/BLAME! Production Committee
Monitor graphics are largely created in production, but headway is also made during pre-production, during which their base designs are created and they are proceduralized. We set a baseline in advance, for example for patterns added for directorial reasons that help develop a work's worldview, or for methods of depicting machines specific to science fiction. By doing this, we think it will be possible in the future to simultaneously consider balancing the overarching direction of each artist's work during production, and increasing the precision of their expressions.
Doing so allows us to anticipate each development in the plot, which we expect will let us adequately address more complicated plot developments in the future.
Even after pre-production, artists often look back on these ideas and reference them during production. We constantly keep in mind integrating these designs into the movie production pipeline in an effective and easy-to-reference way, and create a variety of services to facilitate this. Considering that one challenge related to the production framework in recent years has been cooperating with partner and outsource companies, one can assume that the handling of the display phase will also require further thought in the future. Challenges like these that are close to the problems faced in hand-drawn animation hint at ways to reassess how we make use of artists' skills.
Challenges in producing hand-drawn anime have been collected in the following documents, so please take a look if you are interested.
Difficulty in designing pipeline of concept work
https://a-film-production-technique-seminar.com/fppat/materials/ppi_phones_concept_work_pipeline/index.html
The possibility of cel-look pipeline and challenges to take advantage of the hand-drawn animation
https://a-film-production-technique-seminar.com/fppat/materials/ppi_phones_possibility_celook_pipeline_challenges/index.html
Recent production process of anime and difficulty of constructing production pipeline
https://a-film-production-technique-seminar.com/fppat/materials/ppi_phones_graphinica_animation_process/index.html
■メインキャラクターごとのプライマリーデザイン
■Primary design for each main character
どのようなプライマリーデザインをプリプロダクション時に制作していくかは、作品ごとに異なるかと思いますが、以下は「BLAME!」で作成されたプライマリーデザインをご紹介したいと思います。
キャラクターごとのプライマリーデザイン例
電基漁師
霧亥
サナカン
シボ
©︎Tsutomu Nihei, KODANSHA/BLAME! Production Committee
この作品では、キャラクターの視野内にモニターが存在する設定となっていますが、キャラクターそれぞれに対して、そのキャラクターの個性を表現することを念頭にベースデザインを制作しています。
また本作品のモニターグラフィックスでは、キーとなるデザインコンセプトとして「グリッド」(格子的な表現)があり、デザイン時の各エレメントの配置などで、グリッド空間を意識したレイアウトなども行うように制作されていきました。
グリッドを意識したデザイン
©︎Tsutomu Nihei, KODANSHA/BLAME! Production Committee
使用しているモチーフ絵はすべてのキャラクターで共通となりますが、キャラクターの設定や感情を表現するために、アイデアを積み重ね様々な組み合わせを検討していきます。多くのバリエーションを比較検討して、調整を繰り返す作業においては、現在はアーティストの作業上の手間が多く発生してしまう傾向にあります。プロシージャルな手法の導入や、デザインキーワードとなる単語から自動生成を行うといった支援システムなどの構築により、より多くのバリエーションを短時間で生成し、デザイン検討のためのイテレーション回数を向上させることも可能になっていくものと思われます。
本作品の「BLAME!」では、プリプロダクション時の初期のデザインでは、「テクノロジーの発達」「膨大なデータを複雑に処理している」というイメージをもとにデザインが開始されましたが、情報量を多くし画を埋め尽くしすぎたこと、全体像を意識しすぎて細部に個性が出なかったことなどが原因で、見たいものが見えにくいデザインとなっていました。
それらの反省を踏まえ、最終デザインでは、各要素で画を埋めるのではなく、空間内の隙間を意識したデザイン配置を行ってきました。
プリプロダクション初期のデザインその①
©︎Tsutomu Nihei, KODANSHA/BLAME! Production Committee
デザインを進めていくなかで、ゲームの世界観のようなデザインになってしまったこともありました。最終のデザインに近いですが、ディテールが煩雑になり、少しポップな印象を与えてしまうようになり、ゲーム画面のUIに近く、世界観に合う緻密さ、精密さ、繊細さが表現できていデザインになってしまったこともありました。
その後、いちど原点に戻るかたちで、モチーフ、エレメントを再作成して最終デザインへと至りました。
プリプロダクション初期のデザインその②
©︎Tsutomu Nihei, KODANSHA/BLAME! Production Committee
このようにプリプロダクションでのデザイン検討では、アイデアを具現化していく過程のなかで、検討を繰り返し、時にはアイデアそのものを変更するといったプロセスを何度も行いながら、デザインを模索していくことが多く発生します。
これらデザイン上のトライアルは様々な視点から段階的にアイデアを展開していく傾向になっておりますが、現在、これらのデザイン面でのトライアルも徐々に自動化と組み合わせて運用していくことで、効率的に制作していくことを検討しており、「迅速なアイデアの展開と共有」が、今後の制作でもより重要度を高めていくと考えられております。
制作上のアートワークを支えるシステムという観点で、それらをサーバーサイドのサービスとして構築することも検討されています。下記資料もご参照いただけましたらと思います。
アートワークの自由度を支えるためのサーバーサイドサービスのデザイン
https://a-film-production-technique-seminar.com/fppat/materials/ppi_phones_support_variance_artwork/index.html
The way primary designs are created during pre-production differs depending on the work, but this next section will introduce primary designs created for BLAME!
Examples of Primary Designs for Each Character
Electrofishers
Killy
Sana-Kan
Cibo
©︎Tsutomu Nihei, KODANSHA/BLAME! Production Committee
In this movie, characters have monitors built into their vision, and each character's base designs are created to express each of their personalities.
Also, one of the key design concepts used in making this movie's monitor graphics is a "grid.” Each element is placed during the design phase to create a layout that pays attention to grid space.
Designs That Pay Attention to Grid Space
©︎Tsutomu Nihei, KODANSHA/BLAME! Production Committee
The motif image that is used is common to all characters, but in order to depict a character’s traits and emotion, we amalgamate ideas and consider various combinations. Comparatively analyzing a lot of variations and making repeated adjustments currently tends to cost artists a lot of work and time. It is believed that implementing procedural methods or, for example, constructing a support system for automatic generation from design keywords will allow more variations to be generated in a short time and also make it possible to improve the number of iterations for design planning.
The initial design during pre-production of this film, BLAME! was initiated based on the ideas of "technology development” and "a huge amount of data being processed intricately”; however, the design made it hard to see what we want to see due to reasons like overfilling the picture with an increased amount of visual information and being too concerned with the overall picture, which resulted in a lack of uniqueness in the finer details.
Having learned our lessons, in the final design, we deployed designs which kept in mind the gaps within a space instead of filling the picture with various elements.
Part (1) of the Pre-production Initial Design
©︎Tsutomu Nihei, KODANSHA/BLAME! Production Committee
As we worked on the designs, there were times that they began to resemble a game worldview.
Although the design is close to the final one, the details became complex and gave a somewhat kitschy impression, and since it is close to the UI of a game screen, there were times that the design failed to depict the fineness, precision, and delicacy that fit the worldview.
After that, we went back to the starting point, recreated the motif and elements, and then reached the final design.
Part (2) of the Pre-production Initial Design
©︎Tsutomu Nihei, KODANSHA/BLAME! Production Committee
In summary, there are a lot of cases where a design is explored by repeating the review process and sometimes even changing an idea itself, in order to make an idea concrete when planning designs in pre-production.
These design trials are done in a way that ideas are expanded from various perspectives step by step, but at present, we are considering gradually combining these design trials with automation in order to make production efficient, and we are also planning to raise the importance of "prompt idea expansion and sharing” even more in future productions.
From the perspective of a system that gives support to artwork in a production, we are also considering implementing those things as server-side services. Please refer to the documents below.
Design of server-side services to support the variance of artwork
https://a-film-production-technique-seminar.com/fppat/materials/ppi_phones_support_variance_artwork/index.html
■プロダクションでの作業
■Working in Production
モーショングラフィックスのプロダクション作業には、大きく分けてコンポジット用に素材として提供するケースと、すでにコンポジットされた素材に対してグラフィックを乗せたり、映像処理をかけて画を完成させるケースの2つパターンがあります。
作業工程のタイミングは前者がコンポジット前に作業、後者がコンポジット後に加える作業となりますが、後者の作業の際にコンポジットより前の工程となるレイアウトやアニメーションの段階で、仮の状態の画を作成し、ある程度の方向性をそこで確認し事前に調整したかたちで、コンポジット後に最終的な画を差し替えてブラッシュアップしていくような作業フローをとることもあります。
コンポジット工程にデータを渡す
©︎Tsutomu Nihei, KODANSHA/BLAME! Production Committee
コンポジットされた画にモーショングラフィックスを合成する
©︎Tsutomu Nihei, KODANSHA/BLAME! Production Committee
3DCGを利用した立体的なディスプレイ表現では、3DCGソフトウェア上でキャラクターの目の位置を示すロケーターとカメラの情報をを出力し、細かなグラフィックの作成はモーショングラフィックス用のソフトウェア上で、3Dレイヤーなどの機能を使いながら、奥行きが出るように配置していきます。
そこへロケーター(位置情報)とカメラの情報を読み込み、作成したグラフィックをロケーター位置に配置、親子づけをしてカメラと連動させるといった画作りを行います。
レイヤー数の多いグラフィックを3Dオブジェクトで作成すると時間がかかってしまうため、コンポジットソフトウェアの中でグラフィックスのアニメーション、配置を行うことで作業効率をあげるような手法をとっています。
3DCGソフトウェアでの作業
©︎Tsutomu Nihei, KODANSHA/BLAME! Production Committee
SF作品でよく見かけることのがあるノイズ効果のアニメーションですが、ノイズ表現はモニターグラフィックスで欠かせないテクニックの1つとなっています。
一見するとただ画が荒れているだけのようにも見えますが、ノイズにはアニメーションのリズムがとても重要で、ノイズの大きさ、形状、揺らぎのタイミングで作り出すリズムは演出的に大きな効果を発揮するものと考えています。
下記の画のシーンは、ノイズがかったホログラムで出現するキャラクターのカットですが、キャラクターが目の前で幽霊のように立っているような恐怖感が欲しいという演出意図がありました。
スクリプティングなどで一定のリズムで揺らしても視聴者はいずれ規則的なリズムを覚えてしまい、飽きてしまう可能性があるので、その演出意図を表現するため、手作業でノイズをかけながら何度も映像を見通して心地よいと感じられるタイミング(このショットでは、不快感、恐怖、驚きのあるタイミング)を模索しながら作業を行いました。
コンポジットされた画にモーショングラフィックスを合成する
©︎Tsutomu Nihei, KODANSHA/BLAME! Production Committee
Motion graphics production work can mainly be divided into two cases: supplying materials for compositing, and adding graphics to materials for which composite work is already done or completing the image by executing video processing, etc.
Regarding the work phase timing, the former work is before compositing, and the latter is work after compositing, but there are times during the latter when the workflow is to fine tune a final picture which has been replaced after compositing. This is done by having a temporary image created in an earlier phase before compositing such as layout or animation, confirming the direction to some degree and making adjustments to it in advance.
Passing Data to Composite Phase
©︎Tsutomu Nihei, KODANSHA/BLAME! Production Committee
Combining Motion Graphics with Composited Images
©︎Tsutomu Nihei, KODANSHA/BLAME! Production Committee
In order to depict a three-dimensional display that uses 3DCG, we output locators and camera information that indicate the character’s eye position using 3DCG software, and place them to create depth by using the 3D layer functions and such in motion graphics software to create finely detailed graphics.
We import the locator (positional information) and camera information, place the created graphic at the locator, add parent-child connection and create a picture that moves together with the camera. As creating graphics with many layers using 3D objects takes time, we use a method that increases efficiency, in which animation and placements of the graphics are done in the compositing software.
Working with 3DCG software.
©︎Tsutomu Nihei, KODANSHA/BLAME! Production Committee
Noise effect animation is often seen in sci-fi shows, and depicting noise is one indispensable technique in monitor graphics.
At a glance, it is just an image that looks glitchy, but the rhythm of animation is very important for noise and we believe that the rhythm that results from the size, shape and fluctuation timing of noise gives a significant dramatic effect. The scene in the following picture shows a shot where the character appears as a hologram with noise. Our creative intention for this was to create an eerie feeling when the character stands like a ghost in front of us.
If we fluctuate it with a constant rhythm using scripting and such, the audience will eventually become aware of that systematic rhythm, and there’s a possibility that they will get bored of it, so in order to depict such creative intention, we worked on this by watching the video many times to find the best timing (discomforting, eerie, or surprising timing for this shot) and manually applied noise.
Combining Motion Graphics with Composited Images
©︎Tsutomu Nihei, KODANSHA/BLAME! Production Committee
■まとめ
■Overview
モニターグラフィックスは、SF作品においては単に見た目の格好良さだけを追求するだけでは成立しない場合が多々あります。それぞれの世界観に合わせたデザインを作り出していくことによって、作品の説得力を助ける効果があると考えられています。そのように制作上重要な工程であるため、この資料で紹介させて頂いたような工夫を、各社が各社なりに模索しつつ築いていっている工程といえるかと思います。
日常生活でも、IT機器の普及により、ユーザーインターフェイスとして提示された各種デザインを目にする機会が多くなった時代ではあるため、日常で見慣れたデザインから少し進んだ、未来感を味わえ視聴者がワクワクできる斬新で新しいデザインが、作品ごとに毎回求められていく循環を生んで来ているといえるかと思います。
そこでの重要な事柄は、作品を深く理解し、作品の示す世界で発展しうるデザインとはどんなものかを想像しつつ展開していくことが重要ではないかと考えています。またストーリーを語る要素や演出としても重要な役割を担っている以上、ノイズのリズムを検討したときと同様に、必要以上に目立ち過ぎず、作品として伝いたい必要な情報を視聴者が掴みやすくなるよう提示していく必要があります。
このように、SF作品でのモーショングラフィックスでは、ストーリーを盛り上げる時のさりげない表現やここぞという時の派手なグラフィック表現を織り交ぜていくことにより、その作品の魅力を引き出していくことが重要視されています。
そのため、より様々なアイデアを円滑に試し、アイデアを展開し、トライアルの回数を保持していくためには、各DCC間でのデータの行き来を行いやすいパイプライン上の改善も必要になって来ています。この資料で解説させていただいたように、モニターグラフィックスといった一部の工程を切り出してみても制作上の課題が発生しているのが現状ですが、モニターグラフィックスだけなく同様のトライアルが必要になる様々な工程では、より柔軟なアイデアを生かすトライアルを行うためにワークフローやパイプラインの抜本的な見直しが必要になって来ているように思われます。
本資料は「BLAME!」での制作例をもとに書かせていただいており、作品の世界観や特性に多少偏った内容になっている部分もございますが、モニターグラフィックス制作時のご参考になれましたら幸いです。
There are many cases in works of science fiction in which it is not enough simply to try to make monitor graphics look cool. Producing designs that correspond to the look and feel of the fictional world has the effect of helping to make the work feel convincing. Since this phase has such importance within a production, it seems safe to say that it is a phase which each studio, in its own way, is constructing via exploration of the sorts of methods and approaches this document has presented.
As we live in a time in which, as IT devices proliferate in daily life, devices presented as user interfaces have become an everyday sight, a cycle has been born in which, in each new film or show, designs which feel like fresh and new progressions from designs seen every day are expected to excite viewers with a taste of futurism. What matters here is that the designer deeply understands the work and develop designs by envisioning the designs the world implied by the work is likely to have cultivated.
Also, because these designs play an important role as storytelling or theatrical elements, just as when considering the rhythm of noise, it is necessary to present elements which do not stand out more than necessary, and which make the information the work seeks to convey in a way that is easy for viewers to grasp. By interweaving unobtrusive visuals during scenes intended to raise the intensity of the story with flamboyant graphics which stand out in their own right, the role that motion graphics play within works of science fiction of highlighting what makes that work alluring is seen as of great importance.
This is why it has become crucial to make improvements to pipelines to allow for the straightforward flow of data between each DCC, to enable frictionless testing and development of a greater variety of ideas while sustaining a sufficient number of trials. As this document has put forth, even when the single production phase of monitor graphics is examined on its own, at present a number of production-related challenges present themselves, but the need for various similar trials is not confined to monitor graphics alone, but rather exists in many phases of production, where, in order to conduct trials to exploit more flexible ideas, it seems as though a radical reevaluation of workflows and pipelines has come to be necessary.
This document has been written using production examples from BLAME! and may be somewhat biased toward the worldview or particular characteristics of that film, but we hope it might be of use as a reference during production of monitor graphics.